01.
実際に起きた事件を、当時の資料をもとにまとめただけのもの。 題材は最高に面白いだけにもったいない。登場人物の説明がとにかく長い。 人数も無駄に多いし、時代背景の説明も無駄に長い。 主要キャラならまだ納得できるが、脇役たちにまで多くのページを割く必要性がわからない。 一番の見せどころも、資料をもとに淡々と描かれるだけ。 期待外れの感はいなめない。 まあ、何を求めて読むかによって評価はわかれるだろうが、エンターテインメントを求めたら失望することは必至。 結局、筆者は、ただ詳細な報告書をまとめたかっただけに感じる。 面白く読ませようという気はもともとないようだ。 後世に残る傑作たりえるテーマだけに、もったいないことこの上ない。 同じテーマをもとに、吉村昭氏に書いてもらいたいものだ。
02.
大航海時代、オランダ東インド会社(VOC)の帆船バタヴィア号が座礁。無人島で独裁者として君臨する副商務員イエロニムスは、手下に命じ100人を超える人々を殺す。当初の殺人は食糧難に対する口減らしが目的だったが、次第に忠誠心を試すための殺人、純粋な娯楽としての殺人へと変化する。 「極限状態に置かれた時、ヒトはどういう行動を取るか」というシチュエーションは「漂流教室」や「バトルロワイヤル」に通じるものがある。ただ、本書は実際に起こった事件を膨大な資料を基に再現したドキュメンタリーなのだ。翻訳の力も大きいと思うが、ディティールが細かく、とても400年も前のお話とは思えないリアリティがある。 この惨劇を当時の人は、主人公イエロニムスの異端的な宗教観に端を発するものとしたが、著者は「イエロニムスは当時は珍しいサイコパスだったのではないか?」と結論付けている。確かに自己中心的、嘘つき、罪悪感がない、他人に共感することができない、冷淡、責任感がない等サイコパス特有の人格を備えていたようだ。 大昔の話としてではなく、現代的な、あるいは未来的な寓話として興味深く読むことが出来た。
03.
ゴールディングの「蝿の王」は虐殺の前に幕を閉じた。本書では虐殺で幕が開ける。 17世紀初めにオランダの貿易船がオーストラリア近海で難破、不毛の無人島に数百人が漂着した。 責任者らが助けを求めにいった数ヶ月の間に、異常者による恐怖政治と虐殺のため、生き残ったのはわずか数十名。 遭難と無人島への漂着は大きな不幸だが、ここでは異常者の性癖を引き出す背景に過ぎない。 異常者の語る万能感、アジテーション、乱舞する感情の赴くままの虐殺は、過去に起きた悲惨な事件(連合赤軍事件など)を思い起こさせる。 異常者の行為よりも恐ろしいのは、正常者が異常者に呑み込まれ、あるいは自己の安全のために擦り寄り、正常な精神のままで理由もなく人を殺したこと。 犯人に加えられた刑罰も、それに劣らぬグロテスクさ。 犯罪の地での死罪を免れた者は、四肢を末端から細かく砕かれ、えびぞりに車輪に縛られて晒された、という。 虐殺の犠牲者の死体が養分となり、不毛の珊瑚礁に緑萌えた、という後日談も心寒からしむる。 このバタヴィア号、1970年に一部が引き上げられ、現在は豪州ケアンズのシップレック・ミュージアムに展示されているそうだ。
04.
同じ時期に難破船の苦難を描くノンフィクション「復讐する海」が刊行されて いる。こちらの捕鯨船エセックス号の悲劇は男だけの乗組員なので悲惨で あり、ある意味乾いているが、バタヴィア号には女性もいたということで 悲惨を超えて陰惨と言えよう。惨劇の首謀者(この男さえいなかったら惨劇に はならなかった)の生い立ちも書かれて、かつてのエログロ映画の題材にで もなりそうな話を読み応えあるノンフィクションに仕上げている。定評ある 鈴木主税の訳も信頼できる。
|